新しい科学文化の創造
今世紀初頭以來、急速なる発達をとげた諸科学は、來らんとする二十世紀後半に人類の壮大なる地球的創造を実現しようとする――まことに新しい地球世界の形態は、精密にして明確なる科学的方法と科学的技術によつてのみ創造されることは明らかである。この現代世界の根本的方向にあつて、新しい日本は、自らの最高の理想たる平和の目的のために、堅実雄大なる科学的建設を行わねばならない。
しかもこの場合、自然の根本原理や発展法則の分析認識を行う自然科学の領域だけ止まることなく、さらにまた人間の内的心理、道德文化等の人間の深淵に横わる諸問題を探究する精神科学の領域も極めて重要であり、この両科学に関する綜合的な根本研究を積極化することが要望されるのである。
地球科学
現代の人類は、今日までの狭小な國家的限界をこえて、まことに始めて全地球を綜合的に感覚し、認識し、更に全人類・全世界に眞の福祉を増進させるために、新しい自然、新しい地球を構築・建設すべき史的段階に進展して來ているのである。
こゝに人間生活の基盤たる地球そのものにつき、その本質、全一体を明確にするため地球の全面的・綜合的研究の実施が必要とされる。
地球は不断に生成発展しており、その構造、地理、地質等の問題から、地球史、地球物理学、地球化学、地球の生物学的研究、地球の生命、地球上の物量、物質、地球と太陽、地球の生産力、海洋山岳文化、地球空間と航空文化、人類生活法、地球交通ルートなど、地球文化のすべての領域にわたる根本的再検討・再批判を必要とするのであり、今日までのあらゆる因襲偏見を排除し、正しい地球観の明確なる確立が望まれる。すでに地球一体化が日常的理念となりつゝある時、この新しい地球一体観、球体的認識の上にこそ眞に日本の建設も可能となることを知るのである。
生物学
宇宙・世界・人類の一切の現象を通じて、その根本的原動力たる生命の研究は、数千年の文化史上最も重要なる課題である。
生命の本質とはいかなるものか?この問題は、古來幾千年、宗教、哲学、科学等を通じて、不断に研究・思索・探求されたところであり、いまや生物の全体的・綜合的研究により生命の神秘の本質を把握し、全人類の福祉に劃期的な寄與がなされねばならぬ。
また一般生物の全面的研究は、地球・宇宙そのものとの直接連関にあるものであり、この研究こそ、眞に「地球の平和」の生物的本質、平和文化の根本的方向を実現せしむるものとなるであろう。近代世界文化の基礎たる自然科学的進化論がダーウィンの生物学に発したように、今こそ更により高い生命の本質的研究によつて、宇宙生成の根源力を明確にし、その具体的発現としての平和の建設を実現すべきである。
さらに生物学の研究は、生命の培養力たる食料・食物等との緊密な連関をもつ点より、これに関しても積極的な実験的研究をなし、人類の最も重要なる食糧営養問題を根本的に解決すべきである。これと同時に人類の病根に対し、西洋近代医学の極限としての新しい藥草の研究栽培をなすことも必要のことである。
微生物学
近代科学研究所の長足の進歩、発達によつて、宇宙における微生物の存在の意義はいよいよ重大なるものとなり、その秘められた機能が一切の生命現象、自然現象を決定するような大いなる力を有つことが明らかにされるに至つた。
原子爆弾の本質がウラニウムの原子爆弾としての中性子の放射現象たる極微の活動力の利用であるように、生物界における多種の微生物の活動こそ恐るべき作用を示すものであり、無益たるを問わず、想像を絶する諸変化を齎しているのである。
しかも今や物理界の原子破壊力を活用して人間生活の原動力たらしめようとする如く、生物界の微生物の研究によって、人類の生活上における根本的変革をも惹起する可能性があらわれつゝある。
例えば黴の問題はすべての生物現象の最も神秘な領域であり、これによつて生成・変異・腐敗・絶滅等の幾多の現象が発生し、この十分なる認識を通じて、幾多の有益多效なる結実がもたらされるのである。
すべての病源たるバクテリアも、この微生物たる黴の一種であり、これによつて人体の細胞が冐され、つひ生命の破滅にまで至らしめる。これに対する根本的治療は、その黴を排除する方法に外ならないのである。この黴としての特徴をもつバクテリアを駆除することによつて、最大の課題たる病源の根絶を行う可能性がある。また酒、パン等の酵母もすべて微生物の有効な活用に外ならない。物質の腐敗現象をもつて有利な物質への変換が生ぜられるなど、微生物の利用は甚だ重要性をもつのである。
そして日本はその氣候、氣象、氣流、地勢の関係からして、微生物の発生繁殖に最適の可能性をもつものであり、これを最も有效に活用することは日本にとつて甚大な利益を齎するのである。かくして医学、農業、食料品等の大いなる発展を可能ならしめるとともに、さらに今後、配期的な発明の実現も十分に期待しうるのであり、日本はこの領域に多大の努力を注ぐべき 緊急の必要あるを知らねばならない。
電力科学・技術
電氣時代の到来―――一切の機械、動力の中心的力として、電氣研究、電力技術が文化・國土建設にいかに必要とされるかは言うまでもない。
とくに水力発電に最も有利な日本において、この方面に積極的な研究・実施をなすことは、日本建設の根本的方策たるべく、國土建設計画における新しい大規模な水力電氣開発の実行が全國土に展開される必要がある。また電氣技術の発展が將來の人類の文化創造・地球建設の中核をなすものであることは明かであり、「地球の平和」のモデルとしての日本の建設においては、これに全力が集中されねばならない。
とくに電波科学の驚異的発達は、新しい地球文明創造の体力を示すものであり、この方面に対してあくまでも積極的な科学的研究を実施すべきである。
また農業、漁業建設にあつても、食糧問題の解決のためにも、生活水準の向上発展の点よりも、電力の活用は絶対に必要であり、このため電氣事業はますます新しい方面への発展を可能ならしめるであろう。
かくて日本に最も惠まれた自然力を十全に利用し、この原動力をもつて日本建設の綜合的具体化を行い、「太平洋のスイス」として世界最美の大公園たる日本の平和地域化を完成しなければならぬ。
まことに一切の電化の時代こそ、新しい地球文明の本質をなすものであり、この地球世界建設の計画を実現すべく、電氣の新研究がいよいよ必須とされるのである。
生活科学
今日、人類生活の基礎をなすものは、近代自然科学及びその科学的技術である。
しかも日本にあつてはすでに武力戦に関して何らの科学・技術を必要とすることなく、たゞひたすら平和なる人生の眞意義を顯現する最も正しく最も幸福なる生活の充実をもつて、人類文明に対し寄與をなすべきである。
日本人は從來しばしば科学を單に理論的、或は数学的にのみ思考し、その実生活との本質的関係を全く忘却する傾きがあつた。生活面において科学・技術がはなはだしく疎外され、科学的建設にあつて生活文化が等閑視されてきた傾きがある。しかも今日、生活人としての優劣は、近代科学をいかに自由に駆使しうるか否かによつて決定されると云うも過言ではないのである。
科学こそ「地球の平和」建設の原動力であり、その正しい方向が人類の運命、日本の未來を決定するに至るものである時、――衣食住に関する生活諸現象に対する科学技術の最適・最善の研究活用、生活と科学、精神と物質との技術的結合を実現し、人生の意義を十全に達成することは、日本の平和建設の忘るべからざる重要問題である。
機械・技術
平和建設、厚生施設、文化創造を目的とする技術・機械力の利用研究は、今後いよいよ重要性を倍加し、これに対する旧來の観念を一掃して、正しい人道と美しい生活のために最善の機能を発揮せしめなければならない。
ことに勞働・社会問題の深刻化とともに、その救済の方向として今や生産の部面からも最も積極的なる能率をあげるべきは必須のことであり、こゝに新しい技術の発展を緊急になすべき社会的要請に即して、農業・交通・漁業・家庭・生産等に関する機械の利用、技術文化の活用が絶対に必要とされる。
新しい平和産業の全面的発展の必要から、さらに旧來の日本技術の致命的欠点とも云うべき共同的集團作業の低劣性の克服のため、眞に綜合技術の立体的構成力を十分に発揚・展開すべく研究・訓練しなければならぬ。
また工業技術は今日まで主として都会の工場のみに集中される状況を示しているのであるが、今後はむしろ精密なる科学技術は靜かに豊かな農村にこそ正しい発展の可能性があり、農村文化の優れた基盤を確立するために農村工場・農村技術の急速な進歩をもたらすべきである。
とくに新しい農業の技術研究・実施、及び農工一体化のための農村工業化は今日の最大の問題であり、これによつて旧來の封建的農村組織は一変し、都市搾取の不合理は排除され、眞に技術文化の健全なる発展を可能とするであろう。
さらに技術と厚生施設勤労問題ははなはだ重大なる事象であり、その十分なる解決のためにも、技術の全面的研究を実行し、自然と技術との有機的統合による新しい文化建設を必要とし、女性の文化的活動力を必要とし、女性の文化的活動部面としてきわめて重大性を有するものである。
海洋の科学
來らんとする太平洋文明の黎明に際して、海洋に対する積極的な研究と実施を必要とする。
海洋に対する日本の能力は、戦前世界有数の水産國を誇り、今や再び戦後の諸困難を克服して新しい海洋の自由解放のために最大の活動を志向しつゝある。
四面海に囲まれた海洋國たる特質を発展させることは、今日の日本の緊要の問題であり、――豊富なる暖寒流、黒潮圏に位置する日本の水産漁業の最大限の発展、またそれによる海洋圏の復興再建の方向等、海洋における無限の宝庫は、日本に対して豊かに廣大に開放されている。この領域に向つての建設を積極的に展開することによつて、領土の縮小、物量の貧困等の問題も打開されてゆくであろう。
平和地域建設、太平洋文明の創造のため、海こそ日本にとり最大の活動部面であり、これにより世界文化に対する貢献を最も自由に行いうるのである。さらに全國土の海辺・半島・港湾・島嶼の公園化建設はもとより、一歩進んでは海洋・海中の世界公園化も問題となり、かくて日本の惠まれた海の幸を全面的に活用・充実することは、日本建設の重要題課の一であろう。
転載元:地球文化研究所著『日本經營計画』(1950年12月発表)