1.日本労働問題の現状【日本經營計画Ⅳ】

戦後労働問題の展望(第二次労働白書の示すもの)

朝鮮事件が未だ勃発しない前、――深刻な労資問題の行き悩みに乗じて赤色労組の春季攻勢が展開され、社会不安がとみに増大しつつあつた昭和廿五年四月二十九日、労働省は、昭和廿四年労働経済の分析を発表した。これはドッジ・ラインによる労働経済合理化の面が物価・賃金・雇用・失業・労組運動などにどのように変化を與えたかを明かにしたもので、廿四年に公表した「戦後労働経済の分析」に引きつづき第二次労働白書というべきものであつた。

〔総括〕――

均衡予算の実施に伴い日本経済が安定と自立を目指して再編成されるに従い、雇用・賃金・生計費・労資関係など労働経済の分野においても、全く新しい諸現象があらわれ、この意味では廿四年は一つの大きな転換をした。

安定計画の実施――賃金の著しい上昇傾向はやみ、停滞し、三、四月頃からはむしろ賃金不拂が拡まる。

各企業にみる金づまり滞貨の増加等――経営の危機を企業合理化で乗り切るため、人員整理、企業整備を行うに至る。

労働経済の中心はかくて賃金問題から企業整備問題に移行し、國鉄・全通の行政整理とからみ合い九月攻勢に発展。――この闘争は解雇反対、賃金引下げ反対という消極的な防衛闘争となる。

一方、生産が回復し、國内および國外の需要が減つたため、ヤミ値は低落し、また食糧その他生活必需品の配給が増えたので、戦後はじめてヤミと㊞(原本は丸囲み「公」)を綜合した消費者実効価格は低落し、わずかながら家計の改善に役立つ。

しかし、企業整備による失業人口の増加は政治問題となり、依然この傾向は是正されない。國全体の完全失業者数は約四十万――なお潜在失業は都市農村を通じて拡大、或は農村の過剰人口の問題としてどのように現れるかに注目される。

〔雇用〕――雇用減少の傾向

毎月勤労統計によれば、終戦以來増加して來た就職者数は廿四年に入つて減り、雇用指数は一――十二月間に工業で九%、鉱業で一〇・五%とそれぞれ大幅に減少し、とくに石炭鉱業、機械器具工業、製材木製品工業などは著しい。これは企業合理化を人員整理に求めた結果で、二――十二月間に約四十四万人の労働者が整理された。

〔失業〕――潜在失業問題の重大化

完全失業者数は廿三年平均十九万人に対し、廿四年は約三十八万人と約二倍になる。しかし、賃金労働に対する率からみるとわずかに三%である。

このように完全失業者の少い理由としては、次のようなことがあげられる。

1、戦後の労働者は家計が極端に苦しく、職をはなれても長い間無収入であることができないので、生計を維持するために何かの収入活動を行つている。
2、いまなお家族制度は根強く、縁故関係に寄食が行われている。
3、従來わが國では賃金労働者は離職後零細な小賣業などになる傾向があり、たまたま統制が大幅に撤廃されたので、このような轉職を促した。

したがつてこのような形で潜在的な失業人口(一週の労働時間三十五時間未満のいわゆる部分労働者数は六百八十一万と推定)を形成しているものと推測され、潜在失業の問題として將來重大化することが予想される。

一方、都市の過剰労働力の帰農という形はあまり認められず、農村における過剰労働力は大体農林業に吸収される。その大部分は女子であり、このことは農村の窮乏化に対しなんとか収入をあげようとしているあらわれで、こゝにも将来に対する大きな問題がひそんでいる。

〔賃金〕――能率給重視の方向へ

廿四年十一月の実質賃金水準は二十二年平均を一〇〇として二一五まで改善されたが、戦前に比較すると廿四年平均がまだ七五・二%にすぎず、このまゝで頭打ちとなる懸念がある。

賃金はまだ生活給をもととしているが、次第に能率給重視の方向に向つており、インフレによつて生れた複雑な諸手当は整理されるとともに、臨時給與に対する割合は廿三年平均の一二・九%から廿四年は六・二%に減つた。

〔労働の生産性〕――不足資本設備による生産性の限度

毎月勤労統計による雇用指数と総司令部の生産指数とを比べて労働生産性を割り出すと、年間を通じ廿三年に比し工業では三三・五%、鉱業では二二・七%とそれぞれ上昇している。

廿四年における生産性向上の特色――廿三年が生産の回復によつたのに対し、各産業とも雇用人員を減らし企業合理化に努力した結果であり、不振な産業、或は中小企業は人員整理によつてのみ生産性の下ることを防いでいる。しかしこのような全般的な労働生産性の向上も、戦前に比較するとなお低く、廿四年平均で昭和七――十一年の五五%にしかならない。輸出の不振、滞貨の増加により、石炭業、紡績業等は生産増加を阻まれている。

現在の資本設備ではこれ以上の向上は不可能な状態にあり、労働生産性向上も限度に來ている。

〔結語〕――根本的な問題はどうなる?

安定政策の強く推し進められた結果、労働経済は大きな変化を示し、その影響はとくに常雇者の減少、賃金水準の停滞および遅拂の増加として強くあらわれる等、労働階級の負担によるところ少くない。

輸出の不振、滞貨の増大、金結りの深刻化は日本経済の前途に困難な問題を横たえる。

最低賃金制の問題、統一的な社会保障制度の急速な実現が要望される。

こうした経済情勢は朝鮮事件を境界として、表面的な問題――輸出の不振、滞貨の増大等を解決する方向に轉換したが、しかし根本的な問題――膨大な潜在失業人口の処理、労資一体化の方向、生産と人間の問題等は、なお全く混沌の裡におかれており、世界情勢の進展と日本の在り方の根本問題と関連して、未來にいかに労働生産の人間的調整が行われてゆくかが重大の課題となるであろう。

レッドバージ旗風

赤色追放の契機は報道機関から発し、その理由として、マ元帥書簡に準拠しこれに基く措置は國內法規、労働協約に優先するとの見解に立つものであつた。

マ元帥より吉田首相にあてられた書簡―――「日本の安定を破壊する共産主義者を言論機関から排除することが自主的にして民主的新聞の義務である」と。

これにつづく電氣產業もまた組合側に通告した整理実施要綱の中でその理由を次のように説明する。

一、電氣事業は公共事業であり、この運営の社会公共の福祉にあたえる影響は大きい。
二、従つて業者は、勤労意欲の向上と能率増進のため服務規律刷新の要がある。
三、以上の観点から (A)事業の公共性を欠く者 (B)つねに煽動的言動をなし、他の従業員に悪影響を及ぼすもの(C)業務の運営に支障を来たし、これに協力しない一部従業員等はこれを排除する。

日通・映画界等も電産と同じ整理理由をあげた。

これら民間企業に対し、政府は九月十三日の閣議で、赤色公務員追放にかんする法的解釈を決定――

一、マ元帥の五月三日の対共産党声明と六月六日の日共幹部追放を指令した首相宛書簡の趣旨を体する。
二、その対象は共産主義者およびその同調者で民主主義を破壊する危険分子。

これら二つの理由に該当するものは、公務員としての適格性を欠く者という判定を下した。

これに対する労組一般の反應は、――

総評――

1、暴力による破壊は許されない。
2、法によらず法の解釈を独断的にすべきでない。
3、単に党員たるの理由でかく首するのは不当。
4、便乗整理に反対する。
5、労働强化、御用化の反動政策と闘うが、共産派のゲリラ闘争とは全く異なる。

新産別――
組合の御用化、反動化の事実として作用しており、資本攻勢の集約として出て来ている。従つて原則的に反対である。しかし共産党員の反労働者行爲の具体的に現われた場合、追放は当然である。

総同盟――
権力の干渉に反対する。しかし同時に信僚の何たるかを問わず、労組の民主的活動を妨害するものは自ら排除すべきである。組合の御用化を排するとともに、共産主義者ファッショ分子のこう乱と闘う。

一方、経営者側の立場から、日経連は、九月の臨時総会で「経営者の基本態度」として次の決定を行う。

「われら経営者は、労働者の基本的人権の深い認識に立つて民主的労組の発展を念願するとともに、経営者の立場についての組合の理解ある協力をうるために努力を期せんとする」――と行きすぎを戒めた。

労働者の見解は――
「共産党の産業破壊は許されない」――という法的解釈からの結論をかかげている。

残された問題――
街頭に投げ出された追放者はどこへ行くか?

これに対し労働省ではこれらの人々の多くが公共職業安定所に押しかけることを予想しているが、この場合、職業安定法第三條————「何人も人種・國籍・信條・性別・社会的身分・門地・従前の職場・労組の組合員である等を理由として職業紹介・職業輔導について差別取扱いをうけることがない」――この條項に基き、就労できるとの見解をとつている。

総評議会の結成とその方向

日本労働組合総評議会準備会は昭和廿五年三月発足以来、共産党及び全労連系からのはげしい逆宣傳と排撃を受ける一方、これまで友好團体として同一戰列で闘いつけてきた新産別からも中傷と不信行爲の集中攻撃をあびた。

こうした情勢と闘いつつ総評は同年七月十一、二日の両日東京三田の東交会館で結成大会を挙行。――総評結成の中心的労組は、総同盟・全日労・國鉄・全週・海員組合等十五單産であり、最初総評結成を唱えた私鉄、全鉱電產全日通等の民間有力單産は内部的対立からこれに加入せず、オブザーバーとして止まる。

共産党と全労連傘下の労組には、民主主義的な経済の要請するところのものは何か、またそれに伴う労働者の建設的計画は何か、と云つたものは持ち合せていない。むしろ、経済的進歩の諸条件を阻害し、破壊することこそが目的なのである。

総評は、こうした産業破壊的方向に反対し、政治権力奪取のための行動隊としての労組の利用を断乎拒否している。

総評は、対外的には國際自由労連と結び、内部的には労働者階級のセクト主義と排他主義とを克服し、産業別整理の大事業を推進せんとする。

当面する問題――
ベース改訂、協約の締結と促進、社会保障制の拡充強化、失業対策の積極的措置等をとりあげ、専門分科会を設けて労組間の共同研究・調査・立案を行い、また國会闘争の中枢となつて、労働者の要望を國会に反映せしめようとする。政治的には、あくまで議会中心主義の方針をとり、平和的民主主義手段によつて社会主義社会を実現せんとする政党と積極的に協力する社会民主々義コースの方向をめざしている。

國鉄労組の新動向

朝鮮事件の勃発と、他方國内的にはレッド・パージの動きがようやく活発化しようとする時期に――集会禁止解除後初の國鉄労組第八回大会が、六月廿八日から四日間、北海道登別温泉に開催。

第一の問題――
國鉄機構改革……企業経営の公社組織切り換え、独立採算制による経営合理化と効率の高度化の方向等に対して、必然的に予想される大量かく首、賃金値下げに反対。

第二の問題――
戦争と平和に対する労組の態度が眞劍に論議の対象となる。國鉄労組は全面講和による永世中立の確保と戦争反対を決定したが、しかしその根拠には大衆を説得するだけの合理的内容をもたない。平和の要望と戦争回避の努力は端的に云つて大國による安全保障、或は國際連合に依存するほかない。労働者階級もこゝに世界における眞に民主々義的な労働者階級の力強い提携に基礎をおかんとするとき、新たな世界的現実に身をもつて参與しなければならぬ。

近代労働者が、化学・金属・鉄鋼・電氣等の諸部門で産業別に組織化されず分裂しているならば、労働者の間に組合不要、組合への不信など敗北主義の傾向が生まれるのは当然であり、事実生れつつある。――こゝに総評加盟の意義とその強化の必要が叫ばれてくる。それはまた國際自由労連に結ぶ線を生む根拠である。

國鉄労組はかくてこの大会において、総評加盟を決定し、生成途上にある総評に大きな威力を加えた。平和と戦争防止の手段もすべてこの中に含まれたのである。

電産労組の再編成

電産労組からの「極左追放」は組合本部自からの手によつて排除する方向をとり、同時に会社側の人員整理も断行され、昭和廿五年八月廿六日午前十時を期して中央・地方一せいに、共産党員及びその同調者を対象とする二千百六十名の整理が行われた。

民同系の労組本部では、先に八月十日迄の期限で確認書を出すことを組合員にはかり、左派の強い関東・関西・中部の各地方本部には民同系の代行本部を置いてオルグ活動を展開――その結果次のように全組合員の八五・七%の絶対多数を獲得して左派を圧倒した。

地方名  組合員数     確認者数     未確認者数    %
北海道  六、〇一四    五、九五一    六三       九八・九
東北   一五、五二〇   一五、二〇一   二九九       九八・七
関東   一八、七五七   九、八二〇    八、九三七    五二・三
北陸   七、五八八    七、五六七    二一       九九・七
中部   一九、一〇二   一八、六六二   四四〇      九七・七
関西   二二、八〇三   一五、八七五   六、九二八    八九・六
中國   一二、六二一   一二、五一七   一〇四      九九・二
四國   五、〇七五    四、七二八    三四七      九三・一
九州   一八、八三五   一七、九二八   九〇七      九五・一
合計   一二六、三一五 一〇八、二六九   一八、〇四六   八五・七
(廿五年八月廿一日現在)

確認書の提出を拒否する左派系のうち最も強力なのは発電所を含む日発であり、また左派を地区的にみると東京・神奈川・大阪・兵庫・和歌山などが強力である。

組合全体は四派に分れ、民同系と共産派の他に第三勢力的な関東配電労組(但し民間色が濃い)、関西における第四組合の動きがある。しかし組合本部派の絶対多数は確立される形勢にあり、共産系の除名により再出発する方向にある。

組合運動の反省

労働組合の驚異的な発展――企業内にも経済界でも、組合の発言権は強大となり、組合幹部の地位もまた社会的にめざましい向上をとげた。

しかしこの組合運動は、労働者の人間的自覚、生活権の擁護という眞の目的を徹底することなく、政治的経済的イデオロギーにのみ利用され勝ちであつた。

現在の組合運動をゆがめた要素の一つは組合幹部の権力欲・出世欲である。

大衆の実生活と遊離した幹部達の出世主義的欲求による活動は、組合運動本來の目的をまつたくおろそかにし、組合を單なる足場とするにすぎなかつた。

しかし全労連の解散、あるいはレッド・パージ等にあらわれた最近の情勢の変化は、組合運動家に大きな反省をもたらすのであり、イデオロギーの手先としてではなく、また自らの出世の手段として利用するのではなく、眞に組合運動の意義目的を地につけさせるのが組合運動家の新しい任務たろうとしている。

労組の國連協力

朝鮮事件以來、最初にその態度を表明したのは新産別であつた。

即ち七月十二日の中央委員会で、朝鮮問題と占領政策とを区別し、前者に対しては結論を下さず、特需労務は、占領政策による経済行爲としてこれを是認。

次いで総評は、七月廿五日と九月十一日の評議員会で

1 北鮮の武力侵略に反対する。
2 國連軍の警察行爲を支持する。
3 戰爭介入には反対である。

との三つの方針を決定。特需労務は「私的な自由契約」で、拒否するのは個人の自由との解釈をとる。

総同盟は、八月卅一日の中央委員会で大要総評の線に沿つて決定を出したが、特需にかんしては左派の主張を加味し――「朝鮮事件が次にどんなに性格を変えるか予断できぬが、今日の條件の下に進行している限り、特需の生産と輸送につとめる」旨を明かにした。

しかし、「國連協力」を最も強力に推進しているのは海員組合である。

八月十八日常任委員会は――「可能な限度内の國連協力」を決め、九月三日――「國連軍への協力を妨害するための宣傳活動をするものはすべて組合の統制違反として処分する」ことを決定した。

民間基幹産業の「赤色追放」

民間基幹産業の「赤色追放」は、電産・日通を初めとし、さらに私鉄・金属鉱山・鉄鋼・化学等主要十数業種もこれに着手し、十一月十日頃には全基幹産業の整理が完了する。

民間産業の整理完了は――新聞・電産・映画・日通の四業種、人員三千四百五十三名である。なお今後の整理予定数は約七千数百名とみられ、全産業の整理総数は大体一万名程度に達するものと推定される。

その内訳は次の通り――

業種  人員
石炭  二、三〇〇
造船  五〇〇
自動車  一〇〇
化学  六〇〇
私鉄  七〇〇
金属鉱山  三〇〇
鉄鋼  九〇〇
印刷  一五〇
電機  一五〇
電線  一二〇
報道(整理済み) 六九二
日通  五一四
車輛  一五〇
織維  一二〇
映画  一一〇
電産  二、一三七

全労連の解散

八月三十日――法務府特審局は、この日午前六時四十分を期し、警視廳と協力の下に、全労連本部(港区芝新橋七ノ一二産別会館内)に対し、團体等規正令第二、第四條違反として解散を命じ、共産党代議士土橋一吉氏を含む幹部十二名を追放処分に附す。該当理由は占領政策に対する違反、暴力主義方法の是認を問われたものである。

なお労働組合が解散を命じられたのはこれがはじめてであつた。しかし全労連の今回の解散措置は中央本部に対し行われたもので傘下團体の各單産には適用されなかつた。

全労連は、昭和廿三年の二・一ストを契機に同年三月十日に結成され、産別・総同盟・國鉄・全官公等、全國主要労組の連絡協議機関として発足したが、書記局はじめ指導部が共産党の支配下に置かれていたので、総同盟・國鉄を皮切りに有力組合はすべて反旗をひるがえし、昭和廿四年末にはその加盟員数も五十万以下に急減した。

その後、極左戦線の統一が問題となり、昭和廿五年春から、産別の主要部門は全労連に合体、近く大会を開いて産別を解消、全労連一本が声明されようとしていた。

主要勢力に、全自動車・金属・日映演・電工等があり、左派勢力の最後の拠点であつた。有力指導者はほとんど共産党員であり、その性格として、民同派――総評――國際自由労連の線に対立し、共産系の世界労連に加盟、赤色組合主義の方向をとつていた。

また地方では、共産党の地域人民闘争の一環として動き、勤労会議、地方産別等の組織を中心に左翼労組の再建を劃策していた。

解放の日、卅日正午――全労連では、今回の措置はファッショ的行動であり、自らの手によつて民主主義を破壊し、日本國民をかつての東條の専制に追いやる計画の一端をなしていると、次のように声明を発した。

「われわれは、日本の労働階級を世界労連に結集して、全世界の労働階級と手を組んでこの闘争のための不当な弾圧に抗議し、断乎たる行動をもつて一大反撃を行うであろう。」

民主々義の法律的基礎(全労連解散の示唆する問題)

朝鮮事変の勃発に際し、日本は國連に重要な寄與をなした。もし日本が安定した基地でなかつたら、かくも迅速適切なる行動はとられなかつたろう。

國連が朝鮮で共産主義者の侵略に抗して立ち上つたのは、それが世界の平和愛好諸國にとつて必要であつたばかりでなく、將來、日本を侵略から守ることであつた。

マックアーサー元帥の赤色追放は、適正かつ周到であつた。

しかし日本政府の共産主義者に対する措置については、なお多くの問題を内包しているかの如くである。

全労連解散はこのことの一例である。全労連は明かに共産主義者が支配的であつた。しかし実際のところ組合員のうち六十ないし七十%までは非共産主義者なのである。

全労連は政令によつて解体された。だがそれが破壊的であり、占領或は國連の戰爭努力を脅威するものだとの法律的根拠は與えられなかつた。

民主々義は法律による統治をはつきりと承認し、要求する。今は日本労働者のみならず、民主々義的生活様式を発展させようとしている日本人にとつて重大な時期である。

政府及び労働者は破壊的行爲の法的意義、團体等規正令の最終的定義とそれが現在及び將來組合に運用されうる場合について深く留意し、それが複雑微妙な問題を現実には含んでいるとはいえ、労働運動の健全かつ強力な発展に力を盡すべきである。

それは單に上からの命令ではなく、民衆自身の法律による統治の生きた範例となることである。

総同盟の十字路

全労連の解散とその主力たりし産別の解体状態に伴い、古い傳統をもつ強力な労組結集体は総同盟のみとなる。

その反共的立場はすでに衆知のごとくであるが、内部の左右対立は社会党の内部と同様歴史的で、しかもきわめて陰性の表情を帯びている。

この両派の対立は、廿五年六月のブラッテー書簡問題によつて決定的となる。

八月卅、卅一日――総同盟中央委員会は、講和問題・朝鮮事件対策で左右両派の激戰を展開――あくまで全面講和、中立、軍事基地反対、朝鮮事件不介入を堅持する左派に対し、右派の方は、國際自由労連から同労連日本代表加藤閲男氏に宛てた「國連への無制限支持」の要請に即應すべきことを強調。

結局、松岡会長が両派の調停にのり出し、――「全面講和は敗戰日本國民の当然な要求である。しかし新しい情勢が出て來たらそのときこれに対処すればよい」と発言してその場をおさめた。

しかし、左右両派の陰性的対立はいよいよ深刻化する一方であり、左派執行部粛正の決議を左派がどのように取扱うかによつて、総同盟は事実上の解体か、組織の建直しかの岐路に立つている。

全労連解散後の状況

全労連解散に伴い、日共指導部ではいち早く再建方式を指令し、廣汎な統一運動……民主民族戦線の確立に重点を置くよう指示した。

しかし、一部には日共の支配を排除しようとする動きをみせ、その再建の方途はきわめて暗澹たるものがある。

各労組では、秋季闘争――越年闘争を通じ「闘争の中から戦線統一へ!」をスローガンとして新陣営の組織化をめざしているが、日共自身、主流派と――國際派に対立して抗争をつゞけているかぎり、左翼の戦線はますます困難をきわめることとなろう。

賃金問題の行方

各産業の「赤色追放」一段落とともに、問題の焦点は年末を控えて年末一時金、ベース・アップ等の賃金要求に移行せんとする。

三月攻勢以來鳴りをひそめていた賃金問題の成行は、今後の労働運動の方向を決めるものとして注目され、一方組合運動のヘゲモニーを握つた民同派の試金石となる。

政治闘争から経済闘争へ――朝鮮事件以後は特に機械・鉄鋼・造船等の特需関係をはじめ、一般産業でも、物價の値上り、税金の納期を契機として本格的なベースの引上げ、一時金の要求をはかる。

これに対し政府及び経営者側は「賃金三原則」の線を固守しているが、民間では企業の経理能力に應ずるところも漸増している。

賃金要求を通じてみられる傾向は、第一に民間企業における統一賃金の危機である。石炭、金属鉱山、私鉄等の重要産業では、このため中央で技術的な調整が図られ、企業との闘争という新しい方法がとられる。

かくて第二に、賃金要求の基礎としても、單なるCPS中心主義は是正され、企業の経理能力の科学的分析による点が重視される。

すでにこれらの問題とからんで経営者側では企業合理化の見地に立ち、人員整理や職階制度など賃金体系の変更を要求――このため賃金問題をめぐる紛争はきわめて複雑な要素を含むものとなつた。

民同派はこれに対し、この賃金闘争を足場として労組陣営の勢力回復、戰線の統一をはからねばならぬ立場に追い込まれ、その成行が注目される。

東京に國際自由労連事務所設置

十一月十四日夜、――ロンドンBBC日本語放送を通じ、ブラッセルで開催された國際自由労總会に出席せる日本代表加藤閲男氏は次のように語つた。

「國際自由労連総会に出席した各國代表は、日本の労働組合運動に非常な関心を寄せ、総会では東京に國際自由労連の事務所を開設するため三千ポンド(約三百万円)の予算支出割当が決定された。」

この措置は、日本の労組運動全般の方向に明確な指標を與える基点となるものであり、今後の活動が注目される。

転載元:地球文化研究所著『日本經營計画』(1950年12月発表)

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