1.文化國家形成の基本的方向――いかに日本人を教育するか――【日本經營計画Ⅴ】

四つの島に押しこめられた八千万の人間が、今後いかにその生存をつけるか?――この問題は、単に日本自体の問題としてだけではなく、國際的に一つの困難な問題とされている。

現在、その解決策としては、

1 產兒制限
2 海外移民

の二つが取上げられ、論議されている。

しかし現実的にはいずれも多くの困難と遭遇し、実際に日本の人口を減少させる成果をあげてはいないようである。

しかも一方、人口の圧力は、日々、マルサスの飢餓と貧困の法則をもつて日本人を脅威しているのであり、このま、無爲無策に放置されているとき、経済的にも社会的にも一大破綻を生ずることはあまりにも明白な事実として迫りつつある。

この激増する人口の圧力にたいして――まず、日本國内に人間がどのくらい住みうるかが問題とされなければならない。

四つの島に、人間の住みうるところは既に残されていないのであろうか?――現在の日本國内の人口分布は、ほとんど平野・河口に建設された大都市に集中し、國土の大部分を占める山岳地方は、これに比してほとんど無人の境にもひとしいと言いうるほどである。

山岳地方への人口移動が行われ、山岳の立体量を利用した生活方式を研究することにより、また無制限に平面的地平に拡大膨脹する都市を、立体的に上下空間に向つて発展させることにより、今後、一億二、三千万程度の人口を収容することは、さほど困難でないと思われる。

しかし問題は食糧である。

山岳地方の立体的開発が進めば、耕地の高度な利用によつて、また相当の人口を養うことができるであろう。けれどもそれは、現在のやり方では不可能であり、絶対量は依然として不足する。

ここに残された道は、國際貿易の振興による海外食糧移入の方法である。

そのためには、今後の日本の根本的性格がます決定されるべきであり、現狀の中途半端な性格は一掃されなければならない。

そこには、日本自体の食糧生産入手機構の根本的変革が実現される必要がある。それは過去の食糧自給自足への謬見をまず全面的に放棄することによつて開始されるものである。

1 食糧の可及的輸入
2 水産業の劃期的発達

日本人自身の食糧を輸入によつて充足することは、日本農業の新しい発展を必然化する。日本農村は、高度農業に発展し、高級食品の生産に全面的に切換えられるべきである。そして、農業の機械化・電化・農村工場の建設による輸出食糧としての生產能率の向上を実現しなければならない。また水産業の飛躍的発展によつて食糧問題解決の方向へ進むことも可能である。

日本の工業は、高度の精密化の方向をとる。――これによつて、日本人自身を徹底した技術家たらしめ、同時に技術教育を通じての知的水準の向上をはかる。それはかつて世界最大の戦艦をつくり、高度の航空機を生産しえた日本人の技術が、明確な目的をあたえられれば、必ずや、むしろ容易に実現しうる領域である。「アジアの工場」としての日本の方向は既にこれを示唆するものである。

また日本女性の繊細な技術による繊維工業も、その大量生産の量によるよりも、質の飛躍的向上によつて、新しい世界市場を開拓すがことができると思われる。

しかも、これらの生産の基盤として、日本全國民の文化的、知的水準の全面的向上が計画されなければならない。

教育の成果は、その目標と方法に左右されるものである。もし、現実の生きた目標と適切な方法が與えられれぱ、日本人の知的水準を高めることは、むしろ他のいかなる改革にもましてはるかに容易なことではないであろうか?

現敎育機関の活用と、各方面にわたる廣況な学術機関の設置―――遊休知識人の動員による地方文化と農村教育の発展――全面的な英語教育による日本教育の世界化、世界人としての日本人の飛躍的進出―――によつて、今後十ヶ年に、第二第三の野口・湯川博士の輩出することも充分可能と確信するのである。

日本人の技術家としての機械技術的才能の活用と同時に、日本人の卓越した藝術的才能の発展による藝術家化――進んで深い宗教人としての育成が併行されなければならない。人類文明におけるメカニズムの発展とともに、人間の精神的要求はますます増加するものであり、ここに世界は精神的雰囲気にみちた宗教人を必要とするのである。

この日本人の全面的な文化的、知的水準の向上が、技術家・藝術家・宗敦人としてそれぞれに附與せられたとき、閉されている海外移住の門はおのずから開かれるのであり、日本人全体が高度の技術と精神をもつたグローバルな人間として、全世界に自由の天地を求めて発展することも可能となるであろう。

この日本人自身の質的向上発展は、綜合的國土経営・建設への方向に即してなさるべきであり、日本人の平和文化國民としての再教育が、また現実のあらゆる問題を解決する、一見迂遠と考えられながらも、もつとも直接的な方法となるのである。そして、われわれの能力が充分それをなしうることに、むしろ最大の自信をもつてひたすら前進することが大切であると思われる。

かつて、明治開國によつて、近代國家としての方向に進んだわれわれの祖先が、富國強兵の道を、自らの後進性を克服するためにひたすらに前進し、わずか半世紀にして急速に実現した歴史の傳統は、もとよりそれが武力的・戦争的方向に重点を置く過誤をおかしたとはいえ、今日、新しい平和文化の方向に進むべく決意したわれわれに深い激励と自信をあたえるものである。

われわれは、日本人が新しい平和と文化の方向に、その全情熱を傾注したとき、そこに実現されるであろう輝かしい成果を自信をもつて予測することができる。

明治の時代における最も偉太にして特異な人間的タイプを示した内村鑑三、岡倉天心、野口英世らは、むしろ天才とか特異な人間というよりも、日本人の最も普遍的なタイプが、宗教・藝術・科学というそれぞれ一つの方向に表現された典型ともいうべきものであつた。

それは日本人の大部分が軍事的・政治的方面にのみ精力を集中していた時代に出現したために、一見著しく異つた人間的タイプをあらわしているように思われたのであるが、日本人が、過去の戦争に注ぎ込んだ情熱を、平和的文化的方向に注ぐときまさに第二の岡倉、第三の野口の出現は、必至というべきである。

われわれは、むしろ過去の政治的・軍事的方向こそ、日本人にとつて最も不得意な、また心からの共感をもちえない、ある忌わしいものではなかつたかということを、いまさらに反省せざるをえない。

新しい教育は、博大な平和建設的目的とそれに添う組織的計画のもとで、かつての良き訓育の正しき習慣――忍耐・節度・礼節を生かし、これを文化教育に力強く適用することによつて、恐らく最高の平和文化人が続々と輩出するに至るであろう。

転載元:地球文化研究所著『日本經營計画』(1950年12月発表)

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