5.國土建設財團の設立【日本經營計画Ⅲ】

マッカーサー元帥によつて示された「太平洋のスイス」を眞に國土の生命の上に実現する根本的施策の確立こそ、平和國家として民主々義の新しい途を歩みつゝある日本の現実と未來を結ぶものとして、今日最も要望されるところである。

このため日本の一切の生産力の新しい組織化と根本的開発を実行する日本全土の新しい國土開発建設計画の綜合的確立と、それに対する國際資本導入への最も合理的な日米合同の國際金融財團による政治的・経済的・文化的調整・整合を必要とするものである。

これによつて、かつてドッジ氏の指摘された――「政府の投資及び支出は民間の投資支出ほど生産的であることは稀である」――現在の政府対政府の占領地救済的性格をもつた援助を、民間投資に移行せしめうるものとなるのである。

しかもこの方向は、民主々義の窮極の目標としての自由と繁栄の社会に進むべき資本主義の新しい哲学をもつて導かれるべきであり、それをすでにラテン・アメリカ諸國に対して具体化しつゝあるロックフェラー財國のI・B・E・C(International Basic Economy Corporation)の企業形態に対比されるものとするとき、眞に最大の効果を発揮することが出來ると信ずるのである。

日本における國土開発的行動は、決して單なる部分的生産開発計画によつて実現されるものではない。すでに日本においてもTVA方式にもとずく綜合國土開発の一環として、電力開発が各地域において実施され、それに対する外資導入の問題が進められている。しかしそれらの計画をみるとき、TVAの眞にすぐれた本質である――電力・治水・植林・生産・文化等の綜合的な発展計画に比して、その基準が直接生活の最低限の要求を辛うじて満たすものとして立案され、しばしば水力発電にのみ重点をおくというような偏頗な傾向を示していることを否定しえないと思われるのである。これらの問題に対してさらに大なるスケールと國土全体の綜合的関連にもとずく計画がなによりも充分要望されるところである。

この綜合的な國土開発に対する資本投下を行う國土建設財團は、I・B・E・C的方法と構成をもつて、アメリカ民間資本の全面的導入を前提條件とする日米合同の建設財團として、トルーマン・プランにもとずく後進國援助計画の日本における受入れ体制確立の意図をも有し、さらにデモクラシー平和地域としての政治的目的をも具体化するものである。

この場合、現在日本の所有する基本的な社会的・文化的・経済力を財源として、財團の経済的基盤に活用することによつて日本におけるI・B・E・C的組織としての國土建設財團実現の可能性は、現在I・B・E・Cがラテン・アメリカに対して成功を收めつゝあるように、財源的にも経営的にも充分成立しうると確信するものである。

日本における國土建設財團の性格は、ラテン・アメリカに対するI・B・E・Cが、農業・水産業等の食糧生産的特異性を有するのに対して、將來当然日本の秀麗なる自然美による観光開発的特徴を有するにいたることが予想され、その大いなる発展が期待されるのである。

國土建設財團――計画の概要

目 的

地球の未開地域を開発し、自由と平和の文明を建設せんとする現代の世界的方向にあつて、國際的協力の下に、日本全國土に亘る國土建設を実施し、自然・國土の生産力を基体として、その上に新しい平和と文化の生産経済組織を確立する。

これによつて日本の経済的自立、國民生活の安定を実現するとともに「アジアの工場」としての特質を発展させ、太平洋圏の相互的協力繁栄による新しい民主々義文明を創造建設し、日本を國際的な平和地帯として確立することを目的として金融投資する國際的財團を設立する。

事業の性格

A、日本の國土綜合開発を目的とする現実的合理的方策として、日米協力の國際的財團の確立による、平和國家建設の生産的・社会的事業である。

B、この事業は、I・B・E・Cとしてラテン・アメリカに実施されつつある如き財團設置による民間投資の社会的・生産的事業である。

C、日本全國土の綜合的建設
 「太平洋のスイス化」を目的とする綜合的な全國土の建設、経済的・生産的基礎組織を確立する。

D、米國の対日援助資金の経減
 民間投資をもつて政府援助に替へ、米國民の租税負担を経減する。

E、日本経済の急速な復興
 日本経済力を國際経済の一環として貿易生産の発展を計り、経済的自立を実現する。これとともに日本の貿易ルートを國際経済力によつて現実的に調整する。

F、日本國内の社会的安定と発展
 國内の経済的安定、生活水準の向上、産業振興によつて民主々義社会を建設し共産主義勢力の拡大を防止する。

G、日本の豊潤秀麗な自然の特殊性を最大に活用し、全國土を人類的な観光公園として計画、建設する全國土を資源とする世界経済への一大企業である。

第一期五ケ年計画

I 國土建設

一、水力開発

日本の水力発電は地形的・氣候的條件に惠まれ、この方面に最大の發展をなすことこそ日本建設の重要なる方策である。しかも現実的には大部分の河川は殆んど未開発の状況にあり、現在の数倍の発電は容易に可能である。

スカンディナヴィヤの発展が、その断崖の地形を利用した水力発電にあるように、日本の最大の自然力を活用する大規模な水力開発をもつて建設の原動力とする時、農村、漁村一般國民生活、更に石炭、石油に乏しい日本の産業、鉄道、電波事業、厚生事業等、完全電化の隆盛を出現する無限の発展を可能ならしめることができる。

また電力は國土建設の実施における最大の原動力となり、相互の発展を可能にする綜合的関連にあることを知るのである。

二、水力開発と一体的な綜合的建設

日本全國の森林は濫伐、蟲害によつて甚だしく、ここに必然化される洪水の被害も年々莫大な額に達しているのであるが、その対策は彌縫的、局地的修理の域を出でぬ状況である。

河川の建設は、T・V・Aにみるように河川そのものを大なる公共資源として活用する綜合的な計画によつてのみ、その地球的機能を活かし、河川を基体とする流域一体の文明建設が可能である。また森林に関しても大資本による保険的植林――植林者に対してその一部を前拂形式にて利益を與へ、経営者は樹木の生長後利益をうる保険的方法――によつて、始めて目的を達成しうることを知るのである。

三、交通建設

鉄 道

國有鉄道は日本の國土建設の基本的要素であり、道路、自動車交通が地形上の制約を受けていることからも、その機能は経済的、文化的、社会的活動の動脈である。

しかも戦時、戦後の無計画、無制限な使用と、保管の不徹底のため全線に亘つて老朽化を示している。また現政府は財源獲得のため國有鉄道の一部を民間に拂ひ下げようとしているのであるが、このことはますます分裂と混乱と消耗を激化し、最惡の事態をさへ予想せしむるのである。

これを國際的大資本をもつて再建するならば、全線を綜合的、統一的計画の下に復旧、経營することが可能となり――嘗て時間の正確、清潔等において世界最優秀であつた日本の鉄道の質素は、必ずや世界最良の鉄道となり、世界鉄道の一環としての経営と発展を期待しうるのである。

これと同時的に、國内の道路、海運の建設も、世界観光の一環として建設される時、始めて根本的復旧と発展をなしうるのである。

四、温泉建設

日本全國の秀麗な自然の中に分布されている世界最大、ならびに多種類な泉質の温泉地帶は、從來の因習的、或は全くの未施設の状態から、新しく科学的な、清潔な厚生地帶として建設するならば、日本全土を人類的な世界の大温泉境に建設することが可能である。

II 生産建設

――生産建設にあつては、日本の地理的、文化的、歴史的特質を最善に活かす生産に経済力を集中し、しかもその貿易・販賣ルートはこれを國際的財團の管理に委ね、世界経済の現実的、合理的調整によつて経済競争を回避する。

A、工業生産

一、繊維生産

日本の経済自立への根本的方途たる繊維工業に関して、日本人は本質的に優秀な技術をもち、また有利な地理的、風土的環境にめぐまれている。これに対して大資本の投下による生産の大規模な発展を実現し、生産、勤労体制を改善することは、日本建設の最大の経済政策である。

とくに大量な失業数を予想される女性、農村労働力、戦前の技術者等に対して廣大な領域が開かれ、その低廉な生産費と豊かな水力電氣によつて、世界繊維問題に大なる貢献をなしうることを知るのである。

二、造船工業

海洋國家としての日本は、かつて軍艦建造に示したように、その造船技術は世界最高の水準にある。しかしながら今やその技術、研究、蓄積も用ひられず、技術者は多く轉失業を余儀なくせしめられている。

これを國際経済力の下に、世界の造船工場として、復活、活用するならば、世界の海運界への寄與はけだし莫大なものがあると予想される。また日本の近海航路、漁業の劃期的発展も可能となるのである。

三、精密工業

繊細、緻密な感覚、技能を特質とする日本人は、精密工業に最高の能力を有していた。しかし工作機械、原料等の欠陥によつて、本質的優秀性が十分に発揮されなかつた。

こゝに日本の温和な自然的環境の下に、特に農村工業化の傾向が進みつゝある現在、全國の莫大な農村労働力、女性労働力を基盤として、大資本による綜合的計画の下に、農村精密工業の建設が行われる時、それが今後の日本の基本的産業たりうるとともに、スイスの時計工業に比すべき特異な世界的発展が可能である。

四、工藝生産

日本文化の最も優秀な工藝部門は、早くから世界に冠絶したものであつた。

その高度な美術工藝をはじめ、地方的民藝等一切の工藝技術に現代的生命、世界的感覚を附興し、日本の美的特質を発揮する時、世界の生活藝術に最高の寄與をなしうるものである。

こゝに從來ともすれば個人的藝術品製作に趣る傾向を、大資本の投下により大量生産化を実現し、その上に眞の藝術的價値を活かすことは容易に可能である。

B、食糧生産

一、水産業

古來海洋國家として日本の水産業は、極めて有利な自然的條件に惠まれ、また海洋に対する日本人の特質、水産技術、労働力等に有利な條件を有し、これが日本建設の根本的方向の一つであることは明かである。

しかし現在は大部分小規模な個人的経営のため、資金、施設、船舶加工施設の不足により、眞の能力を発揮しえない。こゝに大資本による科学的合理的組織、経営を実施する時、日本のみならず世界食糧問題への無限の貢献をなしうる可能性をひそませている。

二、牧畜生産

日本の地形の大部分を占める殆んど未開発な山岳地帶、火山地帶、高原等は牧畜に最適の地である。しかし日本の社会的、文化的傳統のため今日迄畜産業は大なる発展なく、こゝに大資本をもつてこれらの地域を牧場化することとこそ食糧問題への大なる寄與、ならびに観光事業との一体化により、相互の一層の発展を可能にするものである。

またキリスト教文化が牧畜を本質的生産形態とする時、日本の全面的牧場建設はその社会的、生産的基盤を形成することになり、日本におけるキリスト教文化の発展を予想せしめるのである。

三、製茶

今日世界的に需要の増大を見ている「茶」は、日本の特殊産物として貴重な輸出品であり、その生産発展のため特定地域に大製茶地帶を建設することは日本再建の重要な方策である。

このことは、現在日本人が綠茶、紅茶、コーヒーを日常的に併用しているように、將來世界の日常的飲料として併用する非常な発展の可能性を有つている。又製菓事業についての將來も甚だ有望である。

四、微生物生産

日本の地理的環境は微生物産業に最適の條件を有しており、これを全面的に活用して、医学、農業、食料等に新しい発展をなすならば、日本は世界最大の微生物産業を建設しうる可能性を有つている。とくに科学的、合理的経営をなす時、この方面における文明の進展が未來に無限の新分野を有している状況になつてその発展は容易に予測しがたいものがある。

III 観光文化建設

一、國宝、文化財の処置

現在日本の混乱した社会的現実にあつて、貴重な國宝、文化財の保管は、政府予算の僅少である事とも併せて極めて困難な状況にある。

しかも数千年の傳統をもつ文化財は、單に日本のみの所有物ではなく、人類の共通の文化遺産であり、この貴重な文化の生命を活かし、完全な保管を行うものとして、こゝに國際的観光事業との全面的一体化の実現が最も要望されているのである。

また文化財のあるものは國外に移譲し、できうればその地に日本文化館を建設して日本の眞の美を保存、登場、紹介することが必要とされるのである。

日本にあつてはこれらの文化財を全國に亘つて自然の中に展開し、イタリーの自然の中に残る古代ローマ文化の如く、日本の優美な傳統的文化を再現し、保管の目的を達するとともに、今迄秘藏されていた文化財も廣く一般に展覧することが可能となるのである。

二、神社、佛閣の保管

右の意味からも、全國に廣く存在する神社、佛閣が、現在日本建築の傳統を保有し、木造建築の美を留めている唯一のものでありながら、次第に荒廃、散逸して行く状態に対し、これを信仰の対象としてではなく、藝術的價値を活かす観光事業化の実施が切実に要望されているのである。

三、観光建設事業

日本の秀麗優美なる自然、國土を基体とする観光建設事業は――「太平洋のスイス」としての日本の未來のヴィジョンを、國土、社会、生活の全形態として実現する平和文化の全面的創造表現である。

こゝに日本の観光建設事業は、國際的観光事業との協力による世界経済への一大企業として「世界の公園」を建設し、それによつて人類の幸福増進を計らんとするものである。

この目的の下に、國土の全面に亘り、――海洋、山岳、高原、河川、湖沼、都市、農村等に対し、平和的、文化的なる観光事業を生産的創造なる社会的機能として積極的に建設し、眞に日本を國際的平和地帯として確立するものである。

転載元:地球文化研究所著『日本經營計画』(1950年12月発表)

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