【文明地政學叢書第二輯】7 孝明天皇による未来透徹の禊祓

●神格の禊祓で生ずる親王家増設

 伏見宮邦家親王(一八〇二〜七二)は仁孝天皇の年少二歳であり、輔平の娘(蓮華心院達子)のもとで生まれ、相続三六歳で鷹司政熙の娘(景子)との婚姻は前記している。
 以下、親王家増設を含め邦家の子を列記すると、
①山科宮晃(一八一六〜九三)
②久邇宮朝彦(一八二四〜九一)
③伏見宮定教(一八三六〜六二)
④小松宮彰仁(一八四六〜一九〇三)
⑤北白川宮能久(一八四七〜九五)
⑥華頂宮博経(一八五一〜七六)
⑦北白川(初代)智成(一八五六〜七二)
⑧伏見宮貞愛(一八五八〜一九二三)
⑨閑院宮(第六代)載仁(一八六五〜一九四五)
⑩東伏見宮依仁(一八六七〜一九二二)
の順で、六家が増設して建てられる。
 このうち、久邇宮朝彦親王家は明治天皇の内親王と婚姻し、
賀陽宮邦憲(一八六七〜一九〇九)
梨本宮守正(一八七四〜一九五一)
朝香宮鳩彦(一八八七〜一九八一)
東久邇宮稔彦(一八八七〜一九九〇)
の親王家増設が許され、本来は久邇宮二代目を継ぐのは賀陽宮(長男)であるべきところ、通説では病弱を理由に二男の邦彦(一八七三〜一九二九)が久邇宮を継いだとされる。
 北白川宮も別記を要するが、初代は第二代目の弟が親王家創設者で能久親王の子が明治天皇の内親王と婚姻し、竹田宮恒久(一八八二〜一九一九)親王家増設が許され、北白川宮三代目は弟の成久(一八八七〜一九二三)が継いでいる。つまり、明治天皇の内親王と婚姻の増設五家を合わせると、幕末維新の禊祓は増設一一親王家を要しており、これらの統合の生命メカニズムが通史の連続性ゆえ、史家に千切り取り思想は許されないのである。

●閑院流鷹司家による公武合体事業

 お浚いを繰り返すが、閑院宮親王家の初代直仁親王を継ぐ典仁親王に光格天皇即位の運命が、鷹司家を継ぐ輔平王子(典仁親王の弟)に公武合体整備の使命が与えられる。輔平は自ら摂家の禊祓に当たり、嫡男を後継と定め家督の整備に当たらせ、末子を徳大寺(清華家)養子とし公家衆基本台帳の検証に当たらせる。嫡男政熙も政通(長男)を後継に定めると他の王子に補佐の役を配分し、王女一九人を公武合体に役立つ各家に嫁がせている。
 その嫁ぎ先は上野吉井藩主家、本願寺大谷光朗、加賀金沢藩主家、仁孝天皇中宮、本願寺大谷光澤、伏見宮邦家親王、尾張名古屋藩主家、将軍家定、広幡基豊(清華家)、陸奥仙台藩主家、蜂須賀斉昌、醍醐輝弘(清華家)、興正寺堯揚、津守国福などである。
 これら親子二代の仕事に、尊号一件が同時並行したり、仁孝天皇へ譲位後の光格上皇への助成を言うに及ばず、仁孝天皇と孝明天皇に代を同じくする政通の仕事がまた重大となる。政通もまた輔熙(長男)を後継に定めるが、前記の通り輔熙の没年は政通没一年前であり、この前後の孝明天皇崩御と大政奉還、そして明治天皇即位の激変も前記している。輔熙の次弟は徳大寺公純(一八二一〜八三)で前記の通り、輔平の末子実堅が整備した徳大寺の家督を引き継いでいる。三弟の幸径(一八二三〜五九)は九条尚忠(一七九八〜一八七一)家に養子入り、兄輔熙を継ぐのは九条幸径の子輔政(一八四九〜六七)であるが、幸径没の八年後の大政奉還の年(一八六七)に輔熙と輔政は相次ぎ没する。
 以後の鷹司を継ぐのは熙通(一八五五〜一九一五)で九条尚忠の子という説もあり、関白尚忠の娘夙子(一八三三〜九七)は孝明天皇の女御で、明治に至り皇后と呼ぶ制度の確立から英照皇太后と呼ばれる。
 因みに、尚忠は二条治孝の子が九条輔嗣家に養子入りしたもので、通説は日米通称条約勅許や皇女和宮降嫁に努めたので佐幕派と見なし、尊皇攘夷派の怒りを買い辞職・閑居を命じられたと解する。千切り取り思想の浅薄さを指摘しても詮ない話ながら、孝明天皇崩御、大政奉還、鷹司家三代没の禊祓こそが閉じられた空間を開かれた空間に導く情報の原義と心得るべきである。然して、天皇暗殺説もしくは大政奉還の顛末などは個人情報を弄ぶ小説ビジネスの仕事であり、史家たる者は神格レベルに達する禊祓を自ら行って、歴史と相結ぶ使命があるのだ。

●閉じられた空間の歴史的システム

 旧約を奉ずる信徒はユダヤ人だけに限らない。神託という特許を競い争う市場は人が文明に目覚めた頃から存在した。神託に基づく宗教ビジネスは、眼前の危険を安全に置換する契約行為のもと、市場を拡大しつつ、顧客情報(住民基本台帳)を備えていく。つまり、危険な現実の逃避先として安全という化物を想定し、信徒をマルチ・システムに巻き込む設計思想が宗教ビジネスの始まりである。日本は神格天皇の振るまいが国体であり、宗教も政体もその存在意義を天皇に求めようとするが、他の文明では宗教・国体・政体の何れも、競い争う市場で自らの価値観を示そうと七転八倒を繰り返している。
 作り話の神を奉ずる徒の詐術三技法は過去も現在も同じであって、まずはホテン(補填)の術を工夫したうえ、何よりニギリ(契約)を急いで、実際ホテンが必要になると、最後はトバシを準備している。トバシとは御破算で願いまする消滅法を常套手段とするが、負の先送りが無理な場合は戦争も辞さない。物質の本能とは常に安定を欲する性癖をもつため、物理は物質一種類が対で成るという原則を基本とする。これが人の本能的な属性であるため、人はニギリ・ホテン・トバシを宿命と勘違いするが、神の正体が情報の発信源であり共振電磁波と知れば、神託は特許でも何でもなく、独占などそこに有り得ない。すでに歴史の証明するように、危険を安全に置き換える術策はかえって置き換えようのない危険を生み出すことになる。その元凶こそ似非の神であり、似非の神を禊祓すれば、詐術三技法の単なる浅知恵が浮き彫りとなる。旧約は現物が主流の住民基本台帳ゆえ、市場規模も限界値を示して高止まりするも、先物を取り込む新約市場が出現すると、市場シェアを競い争う需給が一挙に世界各地に拡散した。ところが、ニギリ・ホテン・トバシの詐術三技法が有史未曾有の権益を生み出すのは現行の条約市場にあり、壊れ行く人の脳は地球までも壊れるのではと勘違いする。

●明治天皇下向の遷宮に対する禊祓

 常に禊祓を要するのが聖地の所以であり、特に神格遷宮の禊祓は極めて重大な歴史認識を必要とする。江戸への遷宮の重さを心得ない愚策は孝明天皇の勅を粗忽極まる攘夷(排外)思想と誤訳して恥じないが、その結果として皇国史観という作り話を講じ、日本史が営々と築き上げてきた文明を詐術三技法の魔境へと落とし込めてしまう。孝明天皇の勅は未来透徹の禊祓であり、皇女和宮の降嫁は家茂を開眼させて、激変期において来たるべき将来に向けて千変万化の神通力を与えた。
 孝明天皇の女御が英照皇太后となる九条夙子とは前記の通りだが、ほかに坊城信子、中山慶子、堀河紀子、今城重子らを後宮とし、典侍に今城尚子も備え、閑院宮載仁親王、伏見宮貞愛親王、華頂宮博経親王、北白川宮智成親王を養子とした。神格禊祓に本義とは無縁の生ける屍は、皇女和宮降嫁の勅を解せず、大衆迎合の小説ビジネスと同じ哀史を組み立て、歴代将軍筆頭の神通力を身に帯びた家茂を軽視するが、家茂の英断は夙に大政奉還を含む使命の重大性を認識していた。孝明天皇に西郷隆盛の拝謁を上奏し、幕臣勝海舟には自らの意を含ませて、来たるべき事態に備える布石を打っていた。
 さて、孝明天皇崩御と明治天皇即位の間に生じる天皇空席期間であるが、先帝崩御が一八六六年一二月二五日、後帝の即位が翌年一月一九日であり、通史に鑑みれば、極めて重大な問題を潜ませている。しかも明治天皇が降誕された嘉永五年九月二二日(一八五二・一一・三)は女御夙子二〇歳であり、生母中山慶子の出自は尊号一件に身を投じた中山愛親(一七四一〜一八四一)の系である。愛親の弟が正親町公明(一七四四〜一八一三)で、この羽林二家は中山を先に立ち上げるが、実の兄弟が両家双方に養子入りして、互いに家督を継承した根一つの公家侍であり、閑院宮親王家創設に深く関与する極めて重要な情報を有する。

●透徹史観による統一場デザイン

 現況文明は史上空前の混線回路で構造不全を露わにし、現行の似非教育が必然的に招いた自壊現象を常態化させている。ただし、通史の連続性に鑑みれば、大騒ぎして悲観する必要はなく、素元の付加価値を掘り起こせば、超克の型示しに救われる時代が来ている。競い争う場は自ら閉じられた空間の情報を捏造してきたが、競わず争わず開かれた空間の信号を正確に接合すれば、強度接着を用いた仮設構造の組み立てよりも遥かに生き甲斐を実感する情報を編む手掛かりが明らかになろう。
 すでに実験現場では、上古の伝承を裏付ける多くの実証が示され、法理と嘯く仮説の正誤も検証が可能である。だから、課題点は実証を裏付ける論証にあり、透徹史観の統一場デザインが求められる所以である。例えば、同じ細工でも「うめき=寄せ木」のような構造は何度でも分解と復元が可能で、接着剤を使う模型構造のごとく相手の性質を千切り取る剥離の性質に左右されない。そもそも、実証現場は通史の連続性に伴う実相実在を究めるため、通史を仮定で結ぶ仮説構造は単なる模型としか認めない現実もある。つまり、実相実在を説く呪術信仰の接合に始まる情報社会の成立は、通史の連続性に晒される淘汰を通じて、実証と論証が抱える過不足共存性が互いに覇を競い合う場を出現させたが、もはや現況の文明は自壊する一方で修復も効かず、実証も論証も神格の型示しに従うほかない時空を迎えている。統一場が禊祓を原義とし、禊祓の本質がリサイクル・システムにあるとすれば、その前提は分解・復元できるか否かが絶対条件ゆえ、実証でも論証でも誰もが正誤を見極めることは簡単なのである。

●神格の未来像と人格の未来像

 似非に塗れた痴を競い合う雑駁社会の中にあって、神格の型示しは実に簡潔であり、小賢しい議論など無用のため、民の生活に自然に溶け込んで歴然とはたらく。それは素元の付加価値を明らかに知らしめ、過不足共存性の単なる労働力が生み出す危険に照らして、安全とは何かの原義をも明らかにするのである。
 立太子礼と大嘗祭は前記の通りで、神格皇統の代表的な型示しに当たるが、通年の新嘗祭も神格の禊祓は皇祖皇宗(神々)の意(信号)を承けて、人が真事(まこと)の行為を尽くし表意(情報化)する統一場の形成に当たる。大嘗祭は「おほにあへまつり」を読むべきで、立太子礼・新嘗祭などの総合設計から、神通力を整えた神格皇統が民を代表して信号(素元)の情報化(穀物)を供え、皇祖皇宗に意を表す意味をもつ。
 稻・麦・豆・粟・黍という五穀から生じるのが砂糖・塩・酢・醤油・味噌であり、食は生命エネルギーの消化と呼吸の機関作用に活性化を促す養分を有している。今では砂糖・塩・酢・醤油・味噌も似非の元である化学添加物を使うが、日常的に繰り返される化学吸着(剥離性接合)が脳内に波及した結果、生ける屍の千切り取り思想しか浮かばなくなるのも無理はない。
 これに現代テレビ番組で日常的に繰り返される愚味が加われば、まともな神経系統ほど鬱積を捨てる場を失い、もともと突発的凶暴性を潜ませている人の本能的属性は眼前の事物を破壊せずにいられない欲求を積み重ねていく。言うまでもなく、その結果こそ現代の索漠なる世相であり、この迷妄空間に留まり続ければゾンビ同士のバトルに巻き込まれて自らも生ける屍として朽ち果てるのが落ちである。
 神格の型示しは言霊「あおうえい」と「わをうゑゐ」の信号を情報化した稻・麦・豆・粟・黍なる素元を供え、皇祖皇宗に報恩の真事(まこと)を示し、素元の付加価値は言霊「さそすせし」の信号を情報化することで砂糖・塩・酢・醤油・味噌の隠し味をも生み出す成果に連なる。これが神格の勅であり、そこにはいかなる特許も存在しないため、万民は安んじて自在性を発揮し、自ら養い・教え・禁じる真事の「みち」を踏みしめるのである。この真事に独占権を持ち来む愚策こそ減反政策であるが、今や五穀五味は国境を超えて世界万民の食を支えようとしている。

●創世記の天皇制

 そもそも、人が空間に刻む自らの時間は過去と未来の連続性であり、時空を要する人の生活とは場の歴史に伴う情報と調和していく源流がある。場の歴史に伴う共時性は、活動の資源を蓄え養う情報を有して、人の本能的属性も社会的な住民基本台帳を積み上げていく。
 この社会的構造資源が場の臨界点に達したとき、前期の歴史を神代とし、それ以後の歴史と結び付ける政体組織が生まれる。つまり、歴史を講ずるのは政体組織の常道であり、神を奉ずる宗教も場の共時性を根拠に権利を主張して競い争うことを免れない。
 この常道に従えば、神武天皇即位の皇紀元年は西暦紀元前六六〇年に相当する。日本以外の他の古代文明は紀元前五〇〇〇年ことに早くも場の臨界点に達していた。臨界の様相は飽和状態を意味するので、外つ国に比して日本の神代が不飽和を保ちつづけた意味は雄大である。
 しかも神代と結ぶ天皇史は万世一系の時空を刻んで、いまだ連続して揺るぎもない現実は他の如何なる歴史にも存在しない。これこそいかなる情報も超克する天皇の振る舞いの本義であり、本来の型示しであるがゆえに、たとえ記紀(古事記と日本書紀)を以てしても到底語り尽くせない蘊奥を湛えているのである。
 この実証を説くカギは連続性を保つ結合法にあり、結合法は相対性理論と量子論の確執を超克しなければ成立しないため、文学では絶対無理があり、さりとて統一場の論証を整えられない科学も信用に値しない。
 さて、皇紀元年をもって始まる創世記の天皇制について、通説は第一〇代崇神天皇の紀元前九七年の即位までは確たる情報が得られないと嘆いている。しからば、崇神天皇の情報は確固たる裏付けを持つものかと問えば、通常なら考古学に立証の根拠を求める歴史学が、窮余の一策として一世紀にも満たない支那の文献考証学に横恋慕したというお粗末にすぎない。もともと天皇制は神格天皇の振る舞いが型示しであって、政権正当化に任ずる史官の必要なく、記録情報が少ないのも当然なのである。
 昨今の天皇語録と称する情報などは、侍従といえど言霊を知らず、何より自らの職能も弁えない臣の私見にすぎず、神格を人格に貶めて恥じない社会の徒花と何ら変わりない。以下、揺るぎない神格の型示しの意義を解明することに、筆者は身命を投じようと決心している。

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