『Next Era Leaders×WSJ』に掲載されました。


【日本語原文はこちら】

生きづらさの声が拡大する昨今、困難の壁を壊すでなく、緩やかにかわす対峙法を語る中森氏。その背景には古代より連綿と継がれた自然科学の視点がある。この先1000年を見据えた新思想体系確立への概要を聞いた。

 株式会社戦略思想研究所は天地自然との調和を実現する新しい思想体系を確立するために存在する会社で、理念追求の過程で得た知見の数々を個人や組織に提供し、強固なコミュニティを形成することで、戦略的に新思想体系確立を実現することを目的としています。当社の存在意義をさらに説明するにあたって「智・情・意」に関して前置く必要があります。18世紀のドイツ哲学者・カントにより精神の根源と表されたこの言葉と古代自然科学には密接なつながりがあります。かつて人間社会の脅威は自然でありました。同時に恵みをもたらすものも自然でした。この「自然」への観察から始まった自然科学は、より良き人間社会構築に向けての「思考」の礎となっていったのです。自然への畏敬は「情(感情)」、より良き社会への志は「意(意志)」、そして蓄積した知識は「智(知性)」と、3要素はスパイラル型の調和を描いていきました。さて、現代における「智・情・意」には、どこか歪みが生じていないか?それが私の問いかけです。科学文明によって肥大化した知性(智)は、精神の情熱(情)を動機とした意志(意)を伴わず、文明の合理性レールに則るに留まり、果ては人同士が競い争う世界を常態化させました。かつて人間は自然を相手に観察を通じて思考を深めてきた。どうすれば自然からの脅威を恵みに置き換えられるのかを考え続けてきた。その思惟に立ち還ることをまずは提言したい、そう考えています。

 この提言には「洞察力」というもうひとつのキーワードがあります。例えば、サイコロには「一天地六、東五西二、南三北四」の法則があります。1面を視れば、全ての面が解かるというもの。これと同じで、僅かな一面を視て全てを観る力、すなわち「洞察力」とはこれを指します。私が師事する歴史研究家の落合莞爾先生はこの洞察力で日本中に衝撃を与える歴史書を発表。著書内容もさることながら、その洞察にこそこれからの時代に欠かせない力が秘められているのです。洞察の起点となるのは違和感や気づきです。私どもを取り巻く規格や規定といったものは、先述の「智」が生んだ合理性の先端にあるもの。では、その合理性を支える根拠に一点の薄いグレー部分を見つけたとするならば?そこが洞察の起点となり、違和感の深化は必ずや「その人ならではの芽生え」へと昇華し、「智・情・意」スパイラルが元来の姿で動き出すことでしょう。ところが、この起点となる違和感が働かない。その理由は、人間がものごとを感じ取る能力が鈍っているため。身体の髄鞘が本来の速度や強度で働いていないためだと考えています。違和感や気づきから遠ざかる私たちに、いま一度「洞察力」再生への機会を供する、それも私の使命なのです。これを推し進めるのは私だけではありません。今や当社にはメディアや学術に経営などあらゆる分野の代表が集まり、この課題への追求プロセスを共有し合いながら各人の在り方を模索しているのです。

 答えには容易には辿り着けません。100年後、1000年後にまで続く息の長い仕事であり、その道のりの純度化と精鋭化それ自体が目的とも言えましょう。また、各人それぞれに洞察の深め方があり、単元的解答の申し送りではない点も申し添えておきたい所です。乱暴な表現にはなりますが、現代は古代より培われた自然科学の思考を食いつぶしているに等しいと考えます。連綿と紡がれた「智・情・意」の「智」ばかりを「文明」に発展させ、人の欲望を満たしてきました。とはいえ、時間の後戻りはできるはずもなく、古代の「智・情・意」の調和そのままを現代に現わすことは現実的ではありません。だから、新しい思想体系が必要なのです。私達人間、そして人間社会が天地自然にとってあるべき本当の姿を追求し、天地自然との調和を実現する新しい「智性」が必要なのです。近代から現代の民主主義は人対自然という構造を人対人の構造へと変化させました。人から搾取し、人より多く得て、人と比べる、どこまでも人間だけの世界。人だけと対峙し続ければ、競う争うの連続です。しかし、視座を天地自然に向ければ、気づきは洞察に、洞察は「智・情・意」スパイラルへと変化してゆく。その潜在的力は人間の誰しもに宿っています。例え自然の大きな脅威に曝されたとしても、むしろ緩やかに向き合い、調和してきた古代人たち。そのDNAは確実に我々にも受け継がれているのですから。

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