物理的独立
米国の独立的支配からの独立とは、取りも直さず「日米安全保障条約」及び「行政協定」を改定することであるが、その最も肝要なのは在日米軍の撤退である。
これに対応するためには、わが国も「非武装中立」などと非現実的なことをいっていては始まらない。米軍基地撤廃の反射として、わが国独自の主体的な国防体制を確立しなければならない。この過程で現状の自衛隊を解体・吸収していく。
これは聖人のいわゆる「兵」を足らすことだ。
文明国、工業国間の本格的戦争はもはや絶滅したとみてよい。これは石原莞爾が提唱し、馬野周二が補完した理論により明らかである。(『世界最終戦争論』馬野周二 東興書院)。
しかし、そのことと軍備の即時撤廃とは自ずから問題が異なると、著者は考える。
今日の文明国の間で本格戦争が終焉した基本的な理由は、戦争の非経済性である。つまり、狩猟社会や農業社会と違って、何よりも経済性を尚ぶ工業化社会では、かかる超非経済的なものは迎えられないということである。
しかしながら今日でも、国際紛争の当事者の一方がまったく無抵抗に相手の略奪を許すときには、一方的武力行使のもつ短期的な経済性が利用されることもあり得ないではない。こうして最低限の軍備の持つ抑止力は、目下のところ平和のための一種の保険である。
ところで米軍撤退後の日米関係は、外見上も本質上も今日とは大差があるまい。今までと違ってくるのは、国内問題に米軍が直接関与しえない、という状況が生まれることである。
逆にいえば、今日いざというときには、日本の国内問題に米軍が出動の気勢を示すことがあり得ないことではない。そのことが、自民党の思考様式や日本人の潜在心理を規定しているのであり、また他国民が日本を評価するときの、評価基準に影響しているのである。
日米はとくに敵対する必要はないが、太平洋をはさんでの「仮想敵」の関係に立つのは已むを得まい。これは日米が太平洋を挟んでもともとそういう地位にあるのであり、またコチラがそこまで気付かなくてもアチラの意識がはっきりとそうである、この認識が肝心だ。
「仮想敵」とは彼我の間の敵意の有無によらず、相手と遭遇したときの予想される被害により設定される。日本は米国から見てソ連・中国についで第三位の仮想敵であることは避けられない。
経済的独立
米国の経済的支配からの独立とは、ドル支配からの独立である。
貿易決済代金などの円建受け払いをすすめるとともに、対米投資に一定の基準を設けて現在の「御用金」的なTB(アメリカ政府債券)投資を制限することが必要になろう。この種の対米協力は回りまわって一面アメリカの軍事力を支えていることにも留意しなければならない。
日本人は工業生産に向いているが、もともと金貸しは似合わない。わが国の歴史上でも鎌倉の土倉、室町の酒屋さらには江戸の札差などといった金融業者が、御家人や大名などの軍事支配層を経済的に圧迫したときに歴史の転換がおこり、とどのつまり債権はパアとなり金貸しは没落、軍事支配者も代わっている。この現代国際社会における相似象が起きないことを祈る。
債権大国などとは、わが国の一部証券会社などの宣伝文句から始まったのであろうが、実に不祥の用語であり見識のある者の用いるべきものではない。実質的にもそう在ってはならない。
こうして財界のドル獲得本能を制御し、ドル支配層から独立したら台湾・韓国・シンガポール・オーストラリアなどに呼び掛けて「円ブロック」を構築する方向性を志向する。
しかしながら、他国に軍事基地を貸しているような国の通貨が、基軸通貨となることは絶対にあり得ない。実は円の国際的独立のためにも日本の軍事的自立が必要なのである。だから、この実現は米軍基地撤廃の後となろう。
フィリピンと香港は第二次募集であるというところであろうが、むろん、文明相(※)の異なるインドや中国とは一緒に経済圏を構成しえない。
貿易面でも「朝貢」的な対米過剰輸出を抑制し、国内生産力は内需拡大で吸収するとともに、劣悪な民生水準を改善すべきである。
また食料自給体制を点検してその綻びを繕い、米国の要求に不用意に屈することのないよう(さらに将来に備えて)原則を樹立しなければならない。オイルショックの反省はここにある。この目的から、水栽培やバイオ量産技術などとくに土地節約的な農業生産に向けてわが国の企業活力を導入すべきである。
そのためにも農業政策を大改革しなければなるまい。農業政策は単独の農家対策ではあり得ないから、農商務省を復活すべきである。
これらは「食」を足らすことに当たる。
この日本の方向転換の結果、多少国際経済が縮小しても已むを得ない。むしろこれを恐れてはならない。輸出至上主義、ドル獲得主義からの精神転換が大事なのである。
※馬野博士の歴史工学によれば、地球上には文明的に位相の異なる地域社会が併存している。第Ⅰ文明はオリエントに発生した。第Ⅱ文明に属するのは中国や西南アジア、インドなど古代文明の故地であり、第Ⅲ文明に属するのは日本と西欧諸国及び及びその周辺NIES、東欧であり、大航海時代に切り開かれた地球経済の観念に最も適合するものである。また米ソは第Ⅳ文明に属するから、その最盛期はずっと先である。
精神的独立
米国の精神的支配からの独立とは、取りも直さず叙上の独立を進めるに絶対に必要な意識改革のことである。日本人の精神的自立を促すためには明らかに二、三の制度変革が必要である。
意識改革の中核は、「日米が永久に一体的な間柄である」との妄想から醒めることである。日米の一体性とは日本人が「工業奴隷」になること以外を意味しない。
つぎに何よりも先ず実行しなければならないのは、わが国の政治制度の改革である。国民の声が的確に政治に届き、これが賢明な政治家による思考と討議を経て、国民に還元される。
このような機能が十分保証される代議システムを構築することである。
このためには『マッカーサー憲法』の改正や教育制度の変革も必要になる。
孔子のいう「民之信」の回復はこういうところから始まる。
なぜ対米関係の項目にこのような国内的改革案を論じなければならないか。これは読者にはすでにお判りであろう。
戦後の政治システムも、憲法も、教育制度もすべてアメリカ覇権の膝下に封じこめられた戦後体制という枠組みで出来ているから、精神的独立とこれらの制度は深く関連しているのである。
要するに「政治改革もしょせんは対米問題」なのである。
講師紹介
1941年和歌山市生まれ。東京大学法学部卒業後、住友軽金属を経て経済企画庁調査局へ出向、住宅経済と社会資本の分析に従事し、1968-69年の『経済白書』の作成に携わる。
その後、中途入社第1号として野村証券に入社、商法および証券取引法に精通し、日本初のM&Aを実現する。1978年に落合莞爾事務所を設立後は経営・投資コンサルタント、証券・金融評論家として活躍。
日本および世界の金融経済の裏のウラを熟知する人物として斯界では著名な存在である。ここ二十年来、孝明天皇直系の「京都皇統」から、日本史の 真相について数々の教示を受け、「落合秘史」シリーズとして出版。日本中に衝撃を与えている。 著書は多数発行されており、落合莞爾塾に関連する著書として、『金融ワンワールド』『明治維新の極秘計画』『南北朝こそ日本の機密』『国際ウラ天皇と数理系シャーマン』『奇兵隊天皇と長州卒族の明治維新』『京都ウラ天皇と薩長新政府の暗闘』『欧州王家となった南朝皇統』『日本教の聖者・西郷隆盛と天皇制社会主義』『天皇とワンワールド』『天皇と黄金ファンド 古代から現代に続く日本國體の根本』『ワンワールドと明治日本』『天孫皇統になりすましたユダヤ十支族』『「吉薗周蔵手記」が暴く日本の極秘事項 解読! 陸軍特務が遺した超一級史料 』『國體アヘンの正体 大日本帝国を陰から支えた「天与のクスリ」』『日本皇統が創めたハプスブルク大公家 國體ネットワークから血液型分類を授かった陸軍特務』、『ワンワールド特務・周恩来の日本偵察 東アジアの勢力図を決した吉薗周蔵の奇縁』、『國體忍者となったタカス族とアヤタチ 周蔵手記が明かす「サンカ」の正体』(いずれも成甲書房)、『活躍する國體参謀』、『三種の蝦夷の正体と源平藤橘の真実』、『応神・欽明王朝と中華南朝の極秘計画』、『ハプスブルク大公家に仕えた帝国陸軍國體参謀』、『神聖ローマ皇帝の世襲皇帝になった南朝王子』『國體共産党が近代史を創った』、『石原莞爾の理念と甘粕正彦の策謀の狭間』(いずれも落合吉薗秘史刊行会)がある。
1943年6月3日、東京都生まれ。1966年東京大学教養学部基礎科学科卒業。 旭化成工業などを経て、現在は中部大学にて教授を務めている。 これまで東京大学、京都大学、愛知大学などの非常勤講師、文部科学省中央教育審議会専門委員、
工学アカデミー理事、芝浦工業大学評議員、NEDO技術委員、日本工学教育協会常任理事などを歴任。 物理化学的手法を用いた原子力、材料、環境などの研究や倫理の研究も行っている。
最近では、「ホンマでっか!?TV」(フジテレビ)をはじめ、テレビ番組にも出演。 これまでの「環境問題の常識」に警鐘を鳴らす。
『武器としての理系思考』(ビジネス社)
『原発と日本の核武装』(詩想社)
『ナポレオンと東條英機 理系博士が整理する真・近現代史』(ベストセラーズ)